埼玉県道395号線(天目指峠) 第1回

第2回 >>>
所在地:埼玉県飯能市
訪問日:2020年10月3日
更新日:2021年1月3日

概要

埼玉県道395号南川上名栗線は,埼玉県飯能市南川地区と,同じ飯能市の上名栗地区とを結ぶ一般県道である.途中で天目指峠(あまめざすとうげ)という峠を越える.なんとも強そうな名前の峠である(後述するように由来は「天を目指す」ではないようだが).

訪れたのは10月.7月の終わりから少しずつマニュアル車の運転を練習し,大分慣れてきたので,そろそろ山道,それも酷道や険道を走りたいなと考え,比較的アクセスのよい埼玉県西部の峠道を調べている中で,ここに白羽の矢が立ったわけである.

Wikipediaの記事には,

特に峠付近の道路はセンターラインや街灯などがほとんどない上に、道幅が狭い。一部のカーブではガードレールがないため危険である。道路脇の側溝に穴が開いており、そこに枯葉や枝などが詰まっているため見づらく、側溝に落ちないよう注意が必要である。また、路面が荒れており急カーブが多い。カーブの部分にはブレーキ痕が数多く残っている。機種によっては携帯電話の電波が圏外となる事もある。

とあり,かなりの険道であるらしいことが出発前からうかがえた.

(出典:地理院地図)

上は埼玉県飯能市周辺の広域図である.

飯能から秩父へ向かう現在の主要な道筋である,西武池袋線・秩父線と国道299号線は,高麗川という川が作った谷筋を走っている.一方,その南側,地図で「金比羅山」と書いてあるあたりを含むエリアは,名栗川という川の流域である.(高麗川も名栗川も,下っていくと最終的には荒川に注ぎ込むのであるが,合流地点はずっと東の川島町のあたりである.)後者の流域である飯能市南西部は,2005年1月1日の編入合併まで,入間郡名栗村という飯能市とは別の自治体であった.

今回記事にする県道395号線は,この2つの谷筋,すなわち,鉄道,国道などがある高麗川沿いの南川(みなみかわ)という地区と,名栗川沿いの上名栗(かみなぐり)という地区を結ぶ峠道である.(2005年以前からの)飯能市の高麗川上流部と旧名栗村との間をショートカットして結ぶ道とも言える.

もう少し拡大してみる.赤い道は,高麗川に沿って遡っていき,正丸峠をトンネルで越えて秩父を目指す国道299号,緑の道は名栗川沿いに登ってきたのち,山伏峠という峠を経て,国道と同じく秩父を目指す県道53号である.そしてそれらを結んでいる黄色い道が,今回走った県道395号線である.

左上に見えている横瀬町の町域は秩父盆地を流れる荒川の流域であるから,このエリアは高麗川や名栗川の源流の近くと言っていい.等高線も密になっており,山もかなり険しいことが予想できる.

今回は,県道53号線を南東よりやってきて,右折で県道395号線に入り,そのまま峠を越えて,国道299号線との合流地点までを走るというルートを取った.県道としての起点は国道299号線側となっているから,終点から起点への逆走という形である.

車載動画

この道については,YouTubeに車載動画を上げてある.

県道53号から峠まで

峠南側の地形図である.県道53号との分岐点である「森河原」のあたりから「穴沢」までは沿道に建物が点在していることが分かる.道の両側の地図記号を見ると,民家のある区間には「畑」も見られるが,基本的には「針葉樹林」が大部分を占めている.道は始めのうちは沢と並行し,途中沢を渡ったりもするが,民家がなくなってからは沢も途切れ,九十九折りで高度を稼いでいく様子が分かる.

また,標高を見ると,県道53号からの分岐点は265m,民家が途切れる「穴沢」のあたりで320m,峠は490mとなっており,かなりの急勾配がうかがえる.試しに Google Map で県道53号との分岐点から峠までの道のりを計算させると2.6kmと出た.この間の標高差が約225mだから,平均斜度約86‰の急勾配である.

県道53号線を東からやってくると,おもむろに道の左側に小さな青看が現れる.

直進すると秩父へ行けるというのはいいが,右折して行ける先が「国道299号」であって街の名前ではないところがまたよい.知る人ぞ知る(知らない人は通るな)という感じがする.

そしてその先にあるこのような信号のないT字路を右折する.「南川上名栗線」という路線名付きの標識が立っていてなぜか嬉しい.右折した先には「名栗の杜」という施設があるようだ.

右折してすぐ,道は1.5車線ほどの道幅で民家の間を縫っていくようになる.ところどころすれ違える場所はあるのだが,ここまで走ってきた片側1車線の快走路とのギャップに少しひるむ.

少し進むとこのような道路情報の案内板が現れ,この先が山道であることを教えてくれる.バリバリに割れていて,機能しているのかは分からない.

更に進むと,先ほど交差点に案内のあった「珈琲&ギャラリー 名栗の杜」という施設がある.その名の通り,喫茶店として営業していると同時に,様々なジャンルの作品が展示されているようだ.

その先,左側にはガードレール越しに小さな沢,右側には年季の入っていそうな石垣,その奥にはお地蔵様という中をゆるやかに登っていく.道幅は狭いが,交通量も少なく,とても心地が良い.

ここで一旦沢を渡る.先ほどの地形図で言えば「穴沢」のあたりである.この沢の名前が穴沢なのであろうか.

沢を渡ってすぐ,一台の対向車が現れ,すこし身構えたが,少しの後退で離合することができた.

沢を渡ってから,道は沢の右岸側を進む.これはその少し先の様子である.左の家がおそらく南側最後の民家だろうと思われる.

そして,地形図にもあるとおり,またすぐ道は沢を渡って左岸側に来る.その沢を渡るところの様子が次の写真である.

明らかにさっきまでと様子が違う.路面はガタガタだし,渡った先の勾配は明らかにさっきまでより急である.家を建てたり畑を耕したりするための平地がわずかにでも谷底にあるのはここまでだぞ,ここからは平地なんか用意してあげないぞ,と何かが語りかけてくるような気がする.

ところで,私は「川と並行して道を作る」「川に対して垂直に橋を架ける」を両立させた結果生まれるシケイン状の道にとても萌えを感じるが,ここも例に漏れずそのようなシケインだったので嬉しくなった.

さて,その後はこのように林の中を進んで行く.地形図が言っていた通り,両側はどこまでも針葉樹林である.道幅は相変わらず離合が困難なほど狭く,また森の中で見通しも悪い.

勾配もどんどん急になっていく.この写真でその急さが伝わるだろうか.このあたりで,沢に沿って登る道という性格は失われる.また,上を見ると,ずっと電線が並行しているのが印象的である.

途中,このように突然広くなる区間や,

このように路面が濡れているヘアピンカーブなどもあり,変化に富んでいて楽しい道であった.詳しくは前述の車載動画を見て欲しい.そして,

このような最狭のヘアピンや,

最凶に路面の荒れた最後の区間を抜けると,峠に到達する.

短い距離ではあるが,かなりの急勾配で杉林の中を抜け,九十九折りのお手本のような緩急様々なカーブの連続で峠を目指す,実に楽しい道だと感じた.幸いこの区間では対向車に出会わなかったためそのように感じるのかもしれないが....

また,ここまでの写真にも何ヶ所か映っているが,道の山側の石積みも実に古そうであり,かつ何種類かの年代のものが混ざっているように感じられた.古くからの峠道として維持・整備され続けてきており,かといって道筋が大幅に書き換わるような高規格化は受けることのなかった,ちょうどいいバランス感の峠道だと思う.

峠に立っている看板や天目指峠という名前の由来,後半の区間については「第2回」以降に回す.