大福寺「崖観音」

所在地:千葉県館山市
訪問日:2020年12月8日
更新日:2021年1月2日

概要

普門院船形山大福寺,通称「崖観音」は,千葉県南部,館山市船形にある真言宗智山派の寺院である.717年に行基が崖に観音像を刻んだのが始まりと言われ,その後天台宗の僧である円仁(慈覚大師)が観音堂を建てたとされている.安房国札三十四観音霊場の第三番に指定されている.

(出典:地理院地図)

これは房総半島の南端付近の広域図である.画面中央が館山湾.その湾の北側に「大房岬(たいぶさみさき)」という岬がある.その周辺の地形図を抜き出したものが以下である.

(出典:地理院地図)

今回訪れた寺院は,上の地形図の中央右下,「堂山」という山の南側斜面に位置している.最寄り駅はJR内房線の那古船形(なこふなかた)駅,内房線南端の館山駅まであと1駅という所である.地形図には神社の地図記号しか見当たらないが,神社(諏訪神社)とお寺(崖観音)が隣接している形である.

アクセスには千葉県道302号館山富浦線を使う.この道はかつては国道127号線であったが,館山バイパスの開通により県道に格下げとなった.上の地形図での赤い道路が国道127号線であるが,北からやってきた国道が「富浦町多田良」のあたりで不自然に東へ折れ曲がり,トンネルなども駆使しながら市街地の東側を迂回している様子が分かる.

県道から駐車場へ

県道への格下げで交通量がかなり減ったのだろうと想像されるかつての国道を北からやってくると,おもむろに崖観音と諏訪神社の入口を案内する看板が現れる.言われるがままに駐車場へと左折すると,いきなりこのような光景が現れる.

予想以上の迫力に圧倒されながらも,車を停め,墓地に沿って右の方へと向かうと,本堂と延命地蔵尊,そして下のような案内板がある(画像クリックで高画質の画像を表示します).

案内板によれば,717年(養老元年),かの有名な行基が,地元漁民の海上安全と豊漁を祈願して,山の岩肌に直接観音像を彫ったらしい.それはさぞかし漁民たちの信仰を集めたのだろうなと勝手に想像する.観音堂の建物の方は,関東大震災で倒壊したのち,大正14年に再建されたものらしい.

引き続き観音堂の方へ登ってゆく.案内板にも地図が載っているが(この地図ではまだ県道が国道127号線となっているのも萌えポイントである),急斜面に対してグネグネと階段が付けられており,途中の「お不動さま」で一度折り返す形である.階段を登り始めたあたりで上を見上げると,観音堂がさらに真上に迫ってくる.

観音堂の上に覆い被さるように突き出した奇岩がとても神々しい.

中腹から

そして,九十九折りの折り返し地点である「お不動さま」からの風景がこれである.

眼下に船形の漁港,そして遠くには館山湾が一望でき,心地がよい.

動画も撮ってみた.

先ほどの案内図には書かれていないが,動画の最後にも映っているように,この「お不動さま」からさらに西へ(観音堂と反対方向へ)進むと,「諏訪神社」という神社がある.こちらはあとで訪れることにして,まずは観音堂へと足を進めた.

ここを上がっていく.途中左側には,崖に穴が掘られ,その中に石仏が置かれていたり,穴を覆う祠のようなものが建てられていたりと,「ミニ崖観音」とでも言うべきものが何ヶ所もある.

観音堂からの眺め

階段を登り切ると,先ほどよりさらに広い眺めが得られる.

下に見えているのが本堂である.左前方の小高い山の裏手には,那古寺(那古観音)がある.海にせり出した防波堤は,船形漁港のものである.館山湾の奥の方に,館山駅や館山城,館山夕日桟橋などがある.

右を向くと,館山湾の南西,洲崎(すのさき)に向かって西にせり出した半島が見渡せる.チーバくんのつま先の部分である.房総半島は大きい逆三角形のように雑に考えがちだが,実際には大小様々な岬や湾があり,房総半島最西端へ向かうこの部分だけでもかなり大きいものだと再認識させられる.

また,右手前には,さきほど駐車した駐車場も見える.車がミニカーのように見下ろせ,短時間でかなり登ってきたものだと実感する.

観音堂

観音堂は,崖に向かって横長の建物であり,清水の舞台のように空中へせり出した部分から靴を脱いで上がっていく.

観音堂内部は先客がいたこともあってあまり写真を撮っていないが,案内板の写真を載せておく.

ご本尊は十一面観音である.前述のように,観音堂の建物は大正時代に再建されたものだが,ご本尊自体は,1300年以上前,崖の中腹に行基が彫ったものがそのまま残っているのであろう.格子や梁のようなものなどの合間から無理な姿勢で拝むことしかできないのであるが,摩耗が激しく,お顔などは既にわかりにくくなっているその姿が,かえって凄みを感じさせる.

また,観音堂の建物自体もとても凝っており,天井には,格子の中に様々な植物(南房総の植物が中心であるらしい)の円形の絵がはめ込まれており,欄間には十二支の彫刻があった(「十二支全てがあるわけではありません,何が欠けているでしょう?」というようなクイズが書かれていた).

諏訪神社

さて,次は観音堂から少し階段を下り,そのまま西の方の「諏訪神社」へと足を進める.

諏訪神社は大変気の毒なことに,2017年3月4日に放火によって本殿と拝殿が全焼してしまったようである.

以前はこの崖を切り開いた場所に立派な拝殿と本殿が建っていたのだろう.狛犬が残っているのがなんとも痛々しい.

この後は,微力ながら再建を祈りつつ諏訪神社の方にもお賽銭をし,神社の参道である長い石段を下って駐車場へと戻った.

情報

住所:〒294-0056 千葉県館山市船形835

公共交通機関:JR内房線那古船形駅徒歩約15分,館山駅等より日東交通バスにて「崖観音前」バス停下車すぐ

駐車場:2箇所に数台ずつ